個人事業主と法人はどっちがいいの?個人事業主が法人化するタイミングと方法を解説

 

個人事業主として活動していると、しばしば事業は個人事業主として行うべきか、それとも法人化(法人成り)するべきかという議論になることもあるのではないでしょうか。結論から申し上げると、どちらが良いのかは状況によるため一概に答えを出すことはできません。 本記事では個人事業主が法人化するとどのようなメリットとデメリットがあるのか。そして何を基準に判断すべきかについて解説していきます。

 

 

目次

    1. 個人事業主が法人化をするメリット
    2. 個人事業主が法人化をするデメリット
    3. 個人事業主が法人化を検討すべきタイミング
    4. 法人設立の流れ
    5. まとめ

 

 

 

個人事業主が法人化をするメリット

事業を法人化するメリットはいくつか考えられますが、特に大きなポイントとして挙げられるのが下記の4つです。

1.節税効果が期待できる

2.信用度が高くなる

3.赤字を10年間繰り越せる

4.決算期を自分で決めることができる

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

1.節税効果が期待できる

節税に関して最も注目すべきポイントは、所得税と法人税の税率の違いです。まず個人事業主の場合は課税所得金額に応じて7段階の税率が設定されており、最大で45%になります。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

国税庁ホームページ No.2260 所得税の税率「No.2260 所得税の税率」より抜粋

 

これに対して法人の場合は所得税ではなく法人税を納税することになります。法人税は2段階の税率が設定されており、800万円以下の部分に対して15%、それ以上の部分に23.20%となっています。(※資本金1億円以下、平成31年4月1日以後に事業を開始した普通法人の場合) このように課税所得金額が高額になるほど、法人税の方が税率が低く、大きなメリットがあると考えられます。また法人の場合は自身の給与を経費として計上できる点も個人事業主より優遇されていると言えるでしょう。 ただし課税所得が低い場合には、法人税の方が税率が高くなることがあるため注意が必要です。

 

2.信用度が高くなる

一般的に個人事業主よりも社会的な信用が高いと言われています。法人登記することで情報を公開すると、業務内容が同じであっても取引先や金融機関からの信用度が上がってきます。実際に個人事業主では取引できない企業やサービスがあることも事実で、事業の幅を広げるという意味では一番大きなメリットかもしれません。 また補助金や助成金の支援金額がアップするケースもあるので見逃せません。

 

3.赤字を10年間繰り越せる

もしも事業で赤字が出てしまった場合、法人の場合には10年間繰り越して相殺することができます。個人事業主であっても青色申告をしている場合には3年間繰り越しをすることができますが、大きな赤字を出してしまった場合には繰越期間が長い方がより有効に活用できるでしょう。

 

4.決算期を自分で決めることができる

個人事業主は決算が12月と決められているのに対して、法人は自社の都合に合わせて自由に決算期を決めることが可能です。そのため自社の繁忙期を避けたり、業界の慣習に合わせたりなど、様々な事情の中で決定できるのがメリットです。 また仮に4月に開業した場合であっても、必ず3月を決算期にしなくてはならないという事はありません。初年度が12か月に満たないというのもOKなので柔軟に設定していくのが良いでしょう。

 

 

個人事業主が法人化をするデメリット

個人事業主が法人化すると多くのメリットがありますが、もちろんデメリットも存在します。これが一概に法人化するべきと言えないポイントです。 前項のメリットの中で課税所得が低い場合には税率が高くなってしまうという点は説明しました。税率以外の点で法人化することのデメリットは以下の4つです。

1.社会保険に加入しなくてはならない

2.赤字であっても税金を支払わなくてはならない

3.事務的負担が大きくなってしまう

4.法人登記費用がかかってしまう

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

1.社会保険に加入しなくてはならない

個人事業主の場合は国民健康保険や国民年金に加入しているケースが多いと思いますが、法人化した場合には、たとえ従業員が1名(代表1人の場合も含む)であったとしても社会保険の加入を義務付けられています。そのため原則として健康保険や厚生年金に加入する必要があり、会社として保険料の半分を支払わなくてはならずコストが高くなります。 ただし国民健康保険や国民年金よりも優遇される点も多く、表裏一体であるとも考えられます。

 

2.赤字であっても税金を支払わなくてはならない

個人事業主の場合、赤字が出た際には課税所得が0円になるため、所得税や住民税は課税されません。しかし法人の場合には法人住民税の均等割というものがあり、企業規模によって納税額が決まるため、赤字の有無にかかわらず課税されます。また社会保険料も赤字であったとしてもなくなりません。

 

3.事務的負担が大きくなってしまう

法人の決算は個人事業主と比べて用意する書類も多く、複雑な作業が多くなります。さらに社会保険の手続きなどもかなり手間がかかるため多くの負担がかかります。一人ですべてを抱え込むのは簡単ではありませんので、税理士や社会保険労務士など専門家の力を借りたり、従業員の採用などを検討する必要があります。

 

4.法人登記費用がかかってしまう

法人化するには「株式会社」か「合同会社」を設立することが一般的です。株式会社の場合には約25万円、合同会社の場合には約10万円の設立費用が必要です。さらに専門家に依頼する場合には追加で費用が必要となることもあります。 株式会社と合同会社にはそれぞれ特長がありますので、安易に設立費用だけで決めるのではなく、事業プランに応じて選択することが大切です。

 

 

個人事業主が法人化を検討すべきタイミング

個人事業主が法人化するメリットとデメリットはご理解いただけたと思います。それではどのタイミングで法人化を検討していくのが適切なのでしょうか。前述のとおり一概に答えはありませんが、一つの目安として今回は2つのタイミングをご紹介します。

 

1.課税所得が700~800万円になったとき

年間の収支をしっかりと計算して、税額を明確した上で判断するのがベストではありますが、目安として挙げられるのが「700~800万円」です。人により控除などの条件が異なってくるので、ベストなタイミングは人に拠りますが、一般的にはこのレンジで分岐すると考えられます。 ご自身の課税所得が700~800万円になる(なりそう)なタイミングで専門家に相談してみるのがおすすめです。

 

2.事業を拡大するとき

事業拡大のフェーズに入った際には、社会的な信用が得やすい法人化を検討しましょう。第一に新規営業の機会も増えることになるため、相手に安心感を与えられることが期待できるのは大きなアドバンテージです。 さらに事業拡大には人材や資金調達が必要不可欠です。人材採用のシーンや、金融機関からの融資、投資家からの資金調達など様々な面で法人であることが有利に働くと考えられます。

 

 

法人設立の流れ

ここからは法人化するにはどのような手続きが必要なのか、簡単に順を追って解説していきます。事前に準備をすることでスムーズな手続きができますので、まだ先かなと思っていても、先に全体像だけでも把握しておいてください。

 

1.会社概要・基本事項を決める

会社の基本となる所在地や事業内容を決定します。主な決定事項は次の8つです。

1.会社名(商号)

2.会社の目的や事業内容

3.本店所在地

4.株主、役員構成

5.役員報酬の金額

6.資本金の金額

7.決算日

8.代表印の作成

会社名の付け方には同一住所で同一名はNGなど、いくつかルールがありますので事前に確認するようにしましょう。また代表印は登記に必要になるので必須ですが、後から銀行印も作ることが多いため、このタイミングで作成してしまうのがおすすめです。

 

2.定款を作成する

定款は法人の組織概要や活動について記した書面で、法人登記に必要な法定文書です。定款には5つの絶対的記載事項と相対的記載事項があり、将来を見据えたうえで準備しておく必要があります。 またと申請用紙のようなものは用意されていませんので、抜け漏れがないようにしっかりとチェックしましょう。自分で手続きをするのが不安な場合には司法書士に相談するなども検討してみましょう。

 

3.公証人に定款を認証してもらう

作成した定款を公証役場で公証人から認証してもらいます。基本的には公証役場に出向く必要がありますが、一定の要件を満たしている場合にはテレビ電話で対応してもらえる場合もありますので条件を確認してみてください。またこの手続きは合同会社を設立する場合には不要です。

 

4.資本金を振り込む

定款の認証完了後に、発起人の口座に資本金を振り込みます。この段階では法人が存在しておらず法人口座を作れないので、代表者名義の新しい口座を作って振り込むようにしましょう。

 

5.登記申請をする

最後に本店所在地を管轄する法務局に認証された定款と、必要事項を記載した登記申請書類を提出して登記申請を行います。登記申請は資本金の振り込みから2週間以内に行う必要がありますので、スケジュールに余裕をもって準備するようにしましょう。 申請が完了したら、会社設立完了です。登記申請日が会社設立日になりますので、希望の設立日がある場合には、その日を目指して準備をしましょう。

 

 

まとめ

個人事業主が法人化するのにはメリットとデメリットが存在しますので、自身の事業にあった適切な選択を求められます。大きく言えば事業規模が大きくなり、売上、収益が大きくなった場合や、事業をスケールさせたい場合には法人化を検討してみるべきでしょう。 ただし法人化するまでには決めなくてならないことや、様々な手続きが必要となりますので、今すぐには必要なくても将来を見据えて法人化の選択肢を持ちながら事業を進める事が重要です。

 

 

 

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